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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)10号 判決

原告 廣瀬幸蔵

被告 豊島税務署長

代理人 野崎守 安達繁 ほか三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六〇年三月三〇日付けでした原告の昭和五八年分所得税の更正のうち、総所得金額七五〇万円、還付すべき税額七万八〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五八年分所得税について、青色の申告書により、別表の一の順号一記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、同表の順号二記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定をした。これに対して原告がした不服申立て及びその応答の経緯は、同表の順号三ないし六記載のとおりである。

2  被告のした右更正(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件更正」という。)は、原告の所得を過大に認定した違法があり、これに伴つてした右過少申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件賦課決定」という。)も違法である。

3  よつて、原告は、本件更正のうち、総所得金額七五〇万円、還付すべき税額七万八〇〇〇円を超える部分及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1は認め、同2は争う。

三  抗弁

1  原告の昭和五八年分の所得は、全額が総所得に係るものであり、その金額は、次の(一)及び(二)の金額の合計額である三八〇一万六一六四円である。

(一) 不動産所得の金額 三〇四二万六一六四円

右の金額は、次の(1)の収入金額から(2)の必要経費の金額を控除した金額である。

(1) 収入金額 六八五八万七八〇〇円

右の金額は、次のイないしニの金額を合計した額である。

イ 賃貸料収入 三三二三万九八〇〇円

右金額は、原告が昭和五八年分所得税青色申告決算書(不動産所得用。以下「決算書」という。)に記載した原告所有の別紙物件目録一及び二記載の物件(以下「本件貸ビル」という。)の賃貸料収入の金額に、原告が本件貸ビルの賃借人の一名から広告搭の設置料として受領した一〇万円を加算した金額である。

ロ 保証金償却 五〇万〇〇〇〇円

右金額は、原告が決算書に記載した保証金償却の金額である。

ハ 駐車場収入 一二四万八〇〇〇円

右金額は、原告が決算書に記載した原告及び廣瀬光子が持分各二分の一の割合で共有する別紙物件目録三記載の物件(以下「本件駐車場」という。)の駐車場収入の金額二四九万六〇〇〇円のうち、原告分であるその二分の一の金額である。

ニ 解約損害金収入 三三六〇万〇〇〇〇円

右金額は、原告が決算書に記載した解約損害金収入の金額である

(2) 必要経費 三八一六万一六三六円

右金額は、次のイ及びロの金額を合計した額である。

イ 管理費 四二七万六八七四円

原告は、株式会社エス・アンド・テイー(以下「エス・アンド・テイー」という。)との間で、原告が所有し又は共有持分を有し、かつ、賃貸の用に供している本件貸ビル及び本件駐車場(以下併せて「本件物件」という。)の管理をエス・アンド・テイーに委託し、その委託の対価としての管理料を原告が地代、賃料等として受領すべき金額の五〇パーセントとする旨の賃貸不動産管理委任契約を締結して、昭和五八年分については、三四二四万三九〇〇円の管理料をエス・アンド・テイーに支払い、右金額を不動産所得の必要経費に算入した。

しかしながら、右管理料の支払いは、後期2のとおり、法人税法二条一〇号に該当する同族会社の行為計算であつて、これを容認した場合には、その株主である原告の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に当たるので、所得税法一五七条に基づき、右行為計算を否認して適正と認められる管理料に引き直して計算すべきところ、適正と認められる管理料は、次のa及びbの金額の合計額である四二七万六八七四円である。

a 本件貸ビルの管理料  四一九万六六二八円

b 本件駐車場の管理料    八万〇二四六円

ロ イ以外の必要経費   三三八八万四七六二円

右金額は、原告が決算書に記載して申告した次のaないしiの金額(ただし、減価償却費については決算書の記載は計算誤りにつき減算し、青色申告控除額については不動産所得の増加に伴い加算した。)の合計額である。

a 租税公課     一四七万九四一四円

b 損害保険料     三一万八二五〇円

c 修繕費      二二八万九六二〇円

d 減価償却費   一九〇五万七〇五九円

e 借入金利子    二六一万一七九九円

f 地代家賃     四八五万四〇〇〇円

g 交際費       二九万四八四〇円

h その他の経費   二八七万九七八〇円

i 青色申告控除額   一〇万〇〇〇〇円

(ニ) 給与所得の金額 七五九万〇〇〇〇円

右金額は、原告が昭和五八年分所得税の確定申告書に記載した給与の収入金額九六〇万円から、所得税法二八条(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)に従い、給与所得控除額二〇一万円を控除した金額である。

2  右1の(一)の(2)のイの原告がエス・アンド・テイーに対してした管理料の支払を、法人税法二条一〇号に該当する同族会社の行為計算であつて、これを容認した場合には、その株主である原告の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に当たり、適正と認められる管理料が右1の(一)の(2)のイのa及びbの金額であるとする根拠は次のとおりである。

(一) エス・アンド・テイーは、昭和五八年当時、原告及び原告と生計を一にする母親である廣瀬光子の二人でその株式の全部を有する法人税法二条一〇号所定の同族会社で、原告が代表取締役を務める従業員をもたない会社であつた。

(二) 原告と同業である者が、同族関係にない不動産管理会社に貸付不動産の管理を委託した場合に支払うべき管理料の金額の賃貸料収入の金額に対する割合に基づいて、本件物件に係る通常であれば支払われたであろう管理料の金額を算出すると次のとおりである。

(1) 本件貸ビルの管理料 四一九万六六二八円

右金額は、次のイ及びロの金額の合計額である。

イ 管理料割合に基づく管理料 二〇二万七六二八円

右金額の算定の方法は次のとおりである。

a 原告の納税地であり、かつ、本件物件の所在地である東京都豊島区を管轄する豊島税務署及び豊島区に隣接する地域を直轄する税務署管内に納税地及び貸ビルを有する不動産貸付業を営む個人で、貸ビルの管理を同族関係にない不動産管理会社に委託している者、その有する貸ビルの構造が鉄骨、鉄筋コンクリート造で、その利用目的が貸店舗若しくは貸事務所のいずれか又は両方が混在する雑居ビルである者、その締結する管理委託契約の業務内容が主として賃貸契約の締結、更新、入居者の募集及び賃貸料等の集金である者(ただし、業務内容に清掃、エレベーター・電気等の保守等がある場合においては、それらのメンテナンスのみを委託している者を除く。)、昭和五八年分において、所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支明細書(不動産用)を提出している者、の各条件に該当する者のうち、不動産所得の収入金額が一六六一万九九〇〇円以上の者すべてについて文書により照会した上で、次の〈1〉ないし〈4〉の抽出基準を設け、その基準にすべて該当する者(以下「比準同業者用」という。)を抽出した。

〈1〉 昭和五八年分の貸ビルに係る賃貸料収入(更新料等の臨時的収入及び公益費収入を除き、広告搭、看板使用料収入等の経常的収入を含む。)が本件貸ビルに係る賃貸料収入の半分以上二倍以下(以下「倍半基準」という。)である一六六一万九九〇〇円以上六六四七万九六〇〇円以下の範囲内である者

〈2〉 年を通じて、不動産貸付業を営んでいる者

〈3〉 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者

〈4〉 更正又は決定処分を受けている者については、当該処分につき国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過している者並びに当該処分に対して不服申立て中及び訴訟中でない者

b 比準同業者甲の昭和五八年分の賃貸料収入の金額に対する支払管理料の金額の割合の平均値は、別表二記載のとおり、六・一〇パーセントとなるところ、管理料割合に基づく管理料の金額は、右1の(一)の(1)のイの賃貸料収入の金額三三二三万九八〇〇円に、右平均値と同割合の六・一〇パーセントを乗じて算出した金額である。

ロ エス・アンド・テイーが特別に支出した管理料額 二一六万九〇〇〇円

右金額は、エス・アンド・テイーが支出した本件物件に係る修繕費等の金額であつて原告の負担すべきものであり、この支出に相当する支払額は、比準同業者甲の支払管理料中に含まれていないため、別途加算するものである。

(2) 本件駐車場の管理料 八万〇二四六円

右金額の算定の方法は次のとおりである。

イ 豊島区内に月極駐車場を有し、不動産貸付業を営む個人で、貸駐車場の管理を同族関係にない不動産管理会社に委託している者、その締結する管理委託契約の業務内容が主として賃貸契約の締結更新、賃借人の募集及び月極料金の集金である者、昭和五八年分において、所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支明細書(不動産用)を提出している者、の各条件に該当する者のうち、不動産所得の収入金額が一二四万八〇〇〇円以上の者のすべてについて文書により照会した上で、次の〈1〉ないし〈4〉の抽出基準を設け、その基準にすべて該当する者(以下「比準同業者乙」という。)を抽出した。

〈1〉 昭和五八年分の月極駐車場に係る賃貸料収入(更新料等の臨時的収入を除く。)が本件駐車場に係る賃貸料収入の倍半基準である一二四万八〇〇〇円以上四九九万二〇〇〇円以下の範囲内である者

〈2〉 年を通じて、不動産貸付業を営んでいる者

〈3〉 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者

〈4〉 更正又は決定処分を受けている者については、当該処分につき国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過している者並びに当該処分に対して不服申立て中及び訴訟中でない者

ロ 比準同業者乙の昭和五八年分の駐車場収入の金額に対する支払管理料の金額の割合の平均値は、別表三記載のとおり、六・四三パーセントとなるところ、本件駐車場の管理料の金額は、右1の(一)の(1)のハの駐車場収入の金額一二四万八〇〇〇円に、右平均値と同割合の六・四三パーセントを乗じて算出した金額である。

(3) 比準同業者甲及び乙は、それぞれ右(1)のイのa又は右(2)のイの各条件を充たす者すべてを漏れなく抽出したもので、そこに恣意の介在する余地はなく、かつ、抽出された者は、原告と業種、事業規模等が類似しているものであるところ、右(1)及び(2)の各管理料は、これら比準同業者の各管理料割合の平均値に基づいて算出したものであつて、正確かつ一般の経済的取引に着目した適正な数値が得られているものであるから、右の算出方法は合理的である。

なお、原告の不動産収入のうちの、保証金償却及び解約損害金収入は、臨時的、一時的に発生するものであつて、管理委託の業務内容上、これらの収入に対する管理料の支払が予定されているものとは認められないから、適正管理料算定の基礎とすべきものではない。

(三) 原告がエス・アンド・テイーに支払つた管理料の金額三四二四万三九〇〇円を、右(二)の(1)及び(2)の管理料の金額の合計額四二七万六八七四円と比較すると、異常に高額であつて、経済人の行為としては、極めて不自然、不合理であり、このような内容の契約の締結は、その相手が右(一)のようなエス・アンド・テイーであるからこそ行い得たものである。

右1の総所得金額三八〇一万六一六四円に係る納付すべき税額は、後記3のとおり一五五二万〇三〇〇円であるところ、原告の確定申告においては還付すべき税額が七万八〇〇〇円とされているのであつて(なお、原告の確定申告において還付すべき税額が七万八〇〇〇円とされているのは、右1の(一)の(2)のイの行為計算によつて不動産所得の金額が〇円とされたほか、給与所得の金額の計算に誤りがあるためで、右計算の誤りを是正すると納付すべき税額は〇円となる。)、実質所得者である原告の所得金額を管理料支払名下に減少させることになることは明らかである。

仮に、右1の総所得金額三八〇一万六一六四円に係る納付すべき税額一五五二万〇三〇〇円と、原告の確定申告における還付すべき税額七万八〇〇〇円と原告がエス・アンド・テイーから受領した役員報酬に係る所得税の額(源泉徴収税額)一二八万六七〇〇円との差額である一二〇万八七〇〇円とを比較すべきであるとしても、後者は前者の七・八パーセントに過ぎず、原告の所得税を不当に減少させていることは明らかである。

(四) したがつて、右1の(一)の(2)のイの管理料三四二四万三九〇〇円の支払は、所得税法一五七条に基づいて否認されるべき行為計算に該当し、適正と認められる管理料の金額は、右(二)の(1)及び(2)の管理料の金額の合計額である四二七万六八七四円である。

3  原告の昭和五八年分所得税に係る所得控除の金額は一二七万〇八五〇円、源泉徴収税額は一二八万六七〇〇円であるから、課税総所得金額は、右1の総所得金額三八〇一万六一六四円から右所得控除の金額を控除した三六七四万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)、算出税額は、右課税総所得金額に所得税法八九条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)所定の税率を乗じて計算した一六八〇万七〇〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)、納付すべき税額は、右算出税額から右源泉徴収税額を控除した一五五二万〇三〇〇円である。

4(一)  本件更正に係る総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも、右1の原告の昭和五八年分の総所得金額及び右3の納付すべき税額の範囲内であるから、本件更正は適法である。

(二)  また、原告は、昭和五八年分所得税に係る納付すべき税額を過少に申告していたものであるから、国税通則法六五条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)に基づき、本件更正により納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて算出した過少申告加算税を賦課した本件賦課決定も適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、(一)の(2)のイの事実及び主張並びにこれを前提とする必要経費の金額、不動産所得の金額及び総所得金額は争い、その余は認める。

2(一)  同2の(一)のうち、昭和五八年当時、原告がエス・アンド・テイーの代表取締役であつたことは認め、その余は不知。

(二)  同2の(二)及び(三)は不知。

(三)  同2の(四)は争う。

3  同3のうち、所得控除の金額及び源泉徴収税額は認め、その余は争う。

4  同4は争う。

五  原告の主張

1  本件において、比準同業者甲の賃貸料収入の金額に対する支払管理料の金額の割合又は比準同業者乙の駐車場収入の金額に対する支払管理料の金額の割合を適正なものとし、これらを基準にして、原告のエス・アンド・テイーに対する支払管理料が異常に高額であつて、原告の所得税の負担を不当に減少させるとし、あるいは、本件の貸ビル又は本件駐車場の適正管理料を算定することは、次のとおり、合理性を欠くものであつて、不当である。

(一) 別表二及び三によれば、比準同業者甲及び乙は各四名であつて、その数が極めて少なく、その支払管理料割合を適正な基準数値とすることは困難である。

(二) 原告のエス・アンド・テイーに対する支払管理料の額が不相当であるか否かを認定するに当たつては、エス・アンド・テイーが原告との賃貸不動産管理委任契約に基づいて原告に提供した役務の内容、性質、提供の程度等を検討して、原告の支払管理料が役務の対価として、相当であるか否かを実質的に判断することを必要とし、この点を度外視して、単に賃貸不動産の管理を不動産管理会社に委託しているという点のみで共通性を有するに過ぎない比準同業者甲及び乙の支払管理料割合と比較し、原告の支払管理料が異常に高額であると認定することは、次のとおり、誤りである。

(1) 賃貸不動産の管理会社といつても、管理委託契約を締結して不動産の管理を受託する相手方(顧客)が特定少数の者に限定されているような会社(以下、このような相手方(顧客)との関係を「専属関係」という。)と、その相手方(顧客)が不特定多数であるような会社(以下このような相手方(顧客)との関係を「非専属関係」という。)とでは、当該管理会社が提供する役務の内容、性質、提供の程度に差異があるとともに、その提供する役務の価格(管理料)の決定の方法が異なるものである。

すなわち、非専属関係にある管理会社にあつては、管理料は、自由競争の下で市場価格として形成された額に決定されるのが通常であり、管理会社にあつても、受託の相手方を増加させ、売上げを増大することによつて、経費中の固定費の部分を相対的に減少させることができるから、このような価格決定の方法の下においても、利益を上げることが可能である。これに対し、専属関係にある管理会社にあつては、右のように受託の相手方の増加によつて売上げを増大することができないから、その管理料は、委託者との合意により、当該管理料によつて受託者の正常な経費(人件費及び物件費)をまかない、かつ、適正な利益を確保することのできる額に決定されるのが通常である。したがつて、一般的には、専属関係にある管理会社の管理料は非専属関係にある管理会社の管理料に比較して高額となるが、それにもかかわらず、専属関係が成立するのは、専属関係にある管理会社の提供する役務の内容、性質がきめ細かく、また、緊急時にも優先して役務の提供を受けられるという利点があるからである。

(2) エス・アンド・テイーは、原告の所有又は原告と廣瀬光子との共有に係る本件物件の管理を受託して、その管理を行うことのみを営業内容とする会社であるから、原告との関係で専属関係にある管理会社である。

そして、エス・アンド・テイーが原告との不動産管理委任契約に基づいて提供する役務を、非専属関係にある管理会社の例として、株式会社ハウジング恒産(以下「ハウジング恒産」という。)と比較すると、〈1〉ハウジング恒産にあつては管理不動産の定期巡回を月一回以上行うのに過ぎないのに対し、エス・アンド・テイーにあつては、別紙物件目録一記載の物件が深夜又は終日営業の飲食業者等が入居するいわゆる雑居ビルであるため、電気系統又は水道の故障、エレベーター等の故障、台風による看板の落下などの緊急事故に備え、全役員が終日機器操作などの事故対策を行い得る体制をとつている、〈2〉管理不動産の室内外の補修、修理については、ハウジング恒産にあつては、単にその「手配」をするに過ぎないのに対し、エス・アンド・テイーにあつては、補修、修理業者の選定、価格の交渉、検査時の立会等の一切の業務を行つている、〈3〉ハウジング恒産にあつては、受託業務を限定し、それ以外の事項についてはその都度協議して決定することとされているのに対し、エス・アンド・テイーにあつては、管理に関連する一切の業務を行うこととされている、などの相違があり、エス・アンド・テイーの提供する役務の性質、内容は、非専属関係にある管理会社と比べ、きめが細かく、また、緊急時にも役務の提供を受けられるものである。

したがつて、原告がエス・アンド・テイーに対して支払うべき本件物件の管理料は、エス・アンド・テイーの正常な経費をまかない、かつ、エス・アンド・テイーが適正な利益を確保することのできる額に決定されることが相当であるところ、エス・アンド・テイーは、昭和五七年七月から昭和五八年六月までの事業年度及び同年七月から昭和五九年六月までの事業年度とも、本件物件の地代、賃料等として原告が受領すべき金額の五〇パーセント相当の管理料収入を得ることによつて、正常な経費をまかなつた上、適正な利益を上げることが可能となつたのであるから、原告のエス・アンド・テイーに対する支払管理料の額が不相当であるということはできない。

(3) 被告が比準同業者甲及び乙を抽出するに当たつて、専属関係にある管理会社にその賃貸不動産の管理を委託した者のみを抽出したものでないことは、抗弁2の(二)の(1)のイのa及び同2の(二)のイの被告主張から明らかであつて、比準同業者甲及び乙のうちに、右のような者が含まれているか否か、含まれているとしてもどれだけであるかは不明であり、原告のエス・アンド・テイーに対する適正な支払管理料の額を算定するための比準の対象としては不相当であつて、これを基にする被告の算定方法には合理性が欠如するものである。

2  エス・アンド・テイーは、右1のとおり、本件物件の管理を行うことのみを営業内容とする会社であるから、その収入は、共益費収入を除けば、本件物件の管理料収入のみであり、右収入は、原告その他の役員に対する報酬、死亡退職金及び弔慶金並びにその他の管理費用として支出され、残余は、エス・アンド・テイーに留保されている。したがつて、原告がエス・アンド・テイーに支払つた管理料のうち、原告の役員報酬額相当分は原告の不動産所得が給与所得に、エス・アンド・テイーの留保額相当分は原告の不動産所得がエス・アンド・テイーの法人所得にそれぞれ転換されて、所得税又は法人税課税の対象となつているものである。なお、その他の役員に対する報酬、死亡退職金及び弔慰金はいずれも適正な範囲での支出であり、その他の管理費用は、全額が本件物件の管理のために支出されたものであるから、本件物件を原告が管理する場合に置き換えても必要な支出である。

原告のエス・アンド・テイーに対する管理料の支払が原告の所得税の負担を不当に減少させるものであるか否かを判断するについては、右のように、原告の支払管理料が、結局は、課税の対象となる所得を構成するに至ることをも斟酌すべきであるのに、それをしないで、右管理料の支払が原告の所得税の負担を不当に減少させるものとする被告の主張は、合理性を欠くものである。

六  被告の主張に対する原告の認否

全部争う。

第三証拠 <略>

理由

一  請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二1  原告の昭和五八年分の所得は全額が総所得に係るものであること並びに抗弁1の(一)の(1)、(2)のロ及び(二)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、以下、右不動産所得に係る必要経費のうち、争いのある管理料の金額(抗弁1の(一)の(2)のイ)について、検討する。

(一)  昭和五八年当時、原告がエス・アンド・テイーの代表取締役であつたことは当事者間に争いがなく、右事実と右1の争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、

(1) 昭和五八年当時、原告は本件貸ビルを所有し、また、原告及びその母親である廣瀬光子は共有持分各二分の一の割合で本件駐車場を共有していたところ、原告及び廣瀬光子は、本件物件を他に賃貸した上、エス・アンド・テイーとの間で、原告及び廣瀬光子が本件物件の管理をエス・アンド・テイーに委託し、その委託の対価である管理料として、原告及び廣瀬光子が本件物件に係る地代、賃料、保証金償却、損害金等として受領すべき金額の五〇パーセントを支払う旨の賃貸不動産管理委任契約を締結しており、原告は、右契約に基づき、昭和五八年分の管理料として三四二四万三九〇〇円をエス・アンド・テイーに支払い、昭和五八年分所得税の確定申告に際し、右金額を不動産所得の必要経費に算入したこと、

(2) エス・アンド・テイーは、昭和五八年当時、原告及び廣瀬光子の二人で株式の全部を有する株式会社であり、東京都豊島区西池袋一丁目二〇番六号に本店を置き、原告が代表取締役を、廣瀬一恵及び原告の友人である石橋慶一が取締役を、廣瀬光子が監査役をそれぞれ務め、土地建物の管理、賃貸借、売買、仲介及び鑑定並びにこれらに付帯する一切の業務をその目的としていたが、現実には、右(1)の賃貸不動産管理委任契約に基づいて本件物件を管理することのみをその営業内容とし、役員のほかに従業員を有してはいなかつたこと、

(3) 東京国税局長が、通達により、原告の納税地で、本件物件の所在地でもある東京都豊島区を所轄する豊島税務署長および豊島区に隣接する地域を所轄する新宿、小石川、本郷、中野、練馬、板橋、王子の各税務署長に対し、対象年を昭和五八年分として、次のイないしトの各条件の全部に該当する者全員について、その賃貸料収入の金額、支払管理料の金額及び後者を前者で除した管理料割合の報告を求めたところ、豊島税務署長から別表二の「対象者の記号」欄のA、Bに該当する者について、新宿税務署長から同欄のCに該当する者について、小石川税務署長から同欄のDに該当する者について報告が有り、また、その余の税務署長から該当者が存在しない旨の報告があつたこと

イ 貸ビルを所有して不動産貸付業を営んでいる者のうち、その貸ビルの管理を同族関係(法人税法二条一〇号に規定する同族会社)にない不動産管理会社に委託している者

ロ 貸ビルの構造が鉄骨鉄筋コンクリート造で、その利用目的が貸店舗用又は貸事務所用及び両方混在する雑居ビルを所有する者

ハ 収支計算により所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支明細書(不動産用)を提出している者のうち、豊島税務署管内及び豊島税務署に隣接する税務署管内に貸ビルを所有する者

ニ 管理委託の業務内容が主として賃貸契約の締結、更新、募集及び集金であるもの(ただし、清掃、エレベーター、電気等の保守等のメンテナンスのみを委託している者は除く。)

ホ 右イないしニの該当者のうち、不動産所得の収入金額が一六六一万九九〇〇円以上の者全員について文書により個別に照会し、それに対する回答書から把握した貸ビルに係る賃貸料収入(更新料等の臨時的収入及び共益費収入を除き、広告搭、看板使用料収入等の経常的収入を含む。)が一六六一万九九〇〇円以上かつ六六四七万九六〇〇円以下である者

ヘ 年を通じて、右イの事業を継続している者

ト 次のいずれにも該当しない者

a 災害等により経営状態が異常であると認められる者

b 更正又は決定処分がされている者のうち、当該処分につき国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過していないもの又は当該処分に対して不服申立てがされ若しくは訴えが提起されて現在審理中であるものに該当するもの

(4) また、東京国税局長が、通達により、豊島税務署長に対し、対象年を昭和五八年分として、次のイないしヘの各条件の全部に該当する者全員について、その賃貸料収入の金額、支払管理料の金額及び後者を前者で除した管理料割合の報告を求めたところ、別表三の「対象者の記号」欄のAないしDに該当する者について報告があつたこと、

イ 貸駐車場(エレベーター式駐車場等ビルを利用した駐車場を除く。)を所有し、月極駐車場の貸付業を営んでいる者のうち、その貸駐車場の管理を同族関係(法人税法二条一〇号に規定する同族会社)にない不動産管理会社に委託している者

ロ 収支計算により所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支明細書(不動産用)を提出している者のうち、豊島税務署管内に貸駐車場を所有する者

ハ 管理委託の業務内容が主として賃貸契約の締結、更新、募集及び集金であるもの

ニ 右イないしハの該当者のうち、不動産所得の収入金額が一二四万八〇〇〇円以上の者全員について文書により個別に照会し、それに対する回答書から把握した月極駐車場に係る賃貸料収入(更新料等の臨時的収入を除く。)が一二四万八〇〇〇円以上かつ四九九万二〇〇〇円以下である者

ホ 年を通じて、右イの事業を継続している者

ヘ 次のいずれにも該当しない者

a 災害等により経営状態が異常であると認められる者

b 更正又は決定処分がされている者のうち、当該処分につき国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過していないもの又は当該処分に対して不服申立てがされ若しくは訴えが提起されて現在審理中であるものに該当するもの

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(二)  しかして、被告は、右(一)の(1)の管理料の支払は、法人税法二条一〇号に該当する同族会社の行為計算であつて、これを容認した場合には、その株主である原告の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に当たるので、所得税法一五七条に基づき、右行為計算を否認して適正と認められる管理料に引き直して計算すべきところ、適正と認められる管理料の金額は、四二七万六八七四円である旨主張するので、この点について検討する。

(1) 右(一)の(2)の事実によれば、エス・アンド・テイーは、昭和五八年当時、内国法人である法人税法二条一〇号に規定する同族会社に該当し、原告はその株主であつたことが認められる。

(2) ところで、その所有する貸ビル及び貸駐車場の管理を法人税法二条一〇号に所定の同族会社である不動産管理会社に委託している者が支払つた管理料について、それが所得税法一五七条に基づく行為計算の否認の対象となるか否かを判断し、また、否認すべきものとした場合における適正な管理料を計算するためには、右のような同族関係にない不動産管理会社に同規模程度の貸ビル又は貸駐車場の管理を委託している同業社が当該不動産管理会社に支払つた管理料の金額の賃貸料収入の金額に対する割合との比準の方法によつて、通常であれば支払われるであろう標準的な管理料の金額を算出し、これと現実の支払管理料の金額とを比較検討することが、合理的な方法であるものと解すべきである。

そして、右1の争いのない事実及び右2の(一)の認定事実によれば、別表二に記載する者(比準同業者甲)及び別表三に記載する者(比準同業者乙)をそれぞれ抽出した選定基準は、前者が本件貸ビルによつて原告が行う不動産賃貸業について、後者が本件駐車場によつて原告及び廣瀬光子が行う不動産賃貸業について、それぞれ業種の同一性、事業規模の近似性、事業所の近接性等において、比準同業者の抽出のための基準として合理的なものであり、抽出の経過において恣意が介在したとの合理的な疑いを容れる余地もなく、また、右比準同業者の賃貸料収入の金額及び支払管理料の金額、ひいては支払管理料割合も、当該年分の申告が確定した青色申告者に照会して得られた結果及び申告の結果に基づくものであつて、正確性が高いものと認めることができる。

(3) そこで、比準同業者甲及び乙の支払管理料の金額の賃貸料収入の金額に対する割合との比準の方法で、本件物件に係る通常であれば支払われるであろう標準的な支払管理料の金額を算定する。

イ 右1の争いのない事実によれば、原告が本件貸ビルによつて行う不動産賃貸業によつて得た昭和五八年分の賃貸料収入の金額は三三二三万九八〇〇円であるところ、比準同業者甲の同年分の賃貸料収入の金額に対する支払管理料の金額の割合の平均値は、別表二記載のとおり、六・一〇パーセントであるから、右三三二三万九八〇〇円に六・一〇パーセントを乗じて算出される二〇二万七六二八円(円位未満の端数四捨五入)が本件貸ビルに係る標準的は管理料の金額であると認められる。

なお、右1の争いのない事実によれば、原告が本件貸ビルによつて行う不動産賃貸業によつて得た昭和五八年分の収入金額のうちに保証金償却の金額五〇万円、解約損害金収入三三六〇万円があることが認められるが、これらの収入は、臨時的、一時的に発生するものであつて、比準同業者甲の支払管理料割合の算出の基礎となるその賃貸料収入中に含まれていないことは右(一)の(3)のホのとおりであるから、賃貸料収入に対する管理料の割合に基づいて標準的な管理料を算定するに当たつては、右の収入金額をその基礎に含めることはできない。

ロ <証拠略>によれば、エス・アンド・テイーは、昭和五八年中に、本件貸ビルに係る修繕費等として二一六万九〇〇〇円を支出し、右は原告の負担すべきものであることが認められるところ、かかる支出は、比準同業者甲の支払管理料中に含まれているものと認めることはできないから、右金額は、原告の支払うべき本件貸ビルに係る管理料の金額中に、別途加算すべきものである。

ハ 右1の争いのない事実によれば、原告及び廣瀬光子が本件駐車場によつて行う不動産賃貸業によつて得た昭和五八年分の賃貸料収入の金額は二四九万六〇〇〇円であり、そのうち原告分はその二分の一の一二四万八〇〇〇円であるところ、比準同業者乙の同年分の賃貸料収入の金額に対する支払管理料の金額の割合の平均値は、別表三記載のとおり、六・四三パーセントであるから、右一二四万八〇〇〇円に六・四パーセントを乗じて算出される八万〇二四六円(円位未満の端数四捨五入)が本件駐車場の持分二分の一に係る標準的な管理料の金額であると認められる。

ニ したがつて、右イないしハの管理料の金額を合計した四二七万六八七四円が、本件物件(ただし、本件駐車場については持分二分の一)に係る通常であれば支払われるであろう昭和五八年分の標準的な管理料の金額である。

(4) しかして、原告がエス・アンド・テイーに支払つた昭和五八年分の管理料の金額が三四二四万三九〇〇円であることは、右(一)の(1)のとおりであるところ、右支払金額は、右(3)の標準的な管理料の金額と比較して、著しく過大であつて、純経済人の行為としては極めて不合理であり、エス・アンド・テイーが、原告を株主とし、かつ、代表取締役とする同族会社であるからこそ、かかる行為計算を行い得たものと言わざるを得ない。

そして、原告の昭和五八年分所得税に係る所得控除の額が一二七万〇八五〇円であることは当事者間に争いがなく、右事実と右1の争いのない事実とによれば、原告の同年分の所得税に係る算出税額は、原告のエス・アンド・テイーに対する支払管理料の金額を現実の支払額である三四二四万三九〇〇円として算出した場合は別表四記載のとおり一三七万三四〇〇円となり、右支払管理料の金額を右の標準的な金額である四二七万六八七四円として算出した場合には後記三のとおり一六八〇万七〇〇〇円となるから、右のような行為計算を放置した場合、原告の不動産所得の金額を減少させ、よつて、原告の所得税の負担を不当に減少させる結果となることは明らかである。

したがつて、右の行為計算は、所得税法一五七条に基づいて否認されるべき場合に該当し、右標準的な管理料の金額である四二七万六八七四円を、原告のエス・アンド・テイーに対する管理料の金額として原告の不動産所得を計算すべきである。

(三)  原告は、エス・アンド・テイーに対する管理料の支払が、所得税法一五七条により否認されるべきであること及び右の四二七万六八七四円を右管理料の金額として計算されるべきことを争い、種々主張するので、以下、右の原告の主張について検討する。

(1) 原告は、まず、比準同業者甲及び乙の数が極めて少なく、その支払管理料割合を適正な基準数値とすることは困難である旨主張する。

しかしながら、右(二)の(2)のとおり、その抽出のための選定基準が合理的で、抽出の過程で恣意が介在したとの疑いがなく、かつ、得られた数値が正確なものと認められる場合にあつては、各四名の比準同業者の数をして、少なきに失するものとまでいうことはできないから、原告の右主張は失当である。

(2) また、原告は、専属関係にある不動産管理会社においては、その提供する役務の内容、性質がきめ細かく、また、緊急時にも優先して役務の提供を受けられる利点があることに伴い、その管理料は、非専属関係にある管理会社の場合と異なつて、当該管理料によつて受託者の正常な経費をまかない、かつ、適正な利益を確保することのできる額に決定されるのが通常である旨主張し、かかる前提のもとに、エス・アンド・テイーは、原告との関係で専属関係にある管理会社であるところ、比準同業者甲及び乙のうちに、専属関係にある管理会社にその賃貸不動産の管理を委託した者が含まれているか否か、含まれているとしてもどれだけであるか不明であるから、原告がエス・アンド・テイーに支払うべき適正な管理料を算出するに当たり、比準同業者甲及び乙の支払管理料割合を比準の対象とすることは合理性を欠く旨主張する。

しかしながら、賃貸不動産の管理を不動産管理会社に委託する場合において、受託者が専属関係にある管理会社である場合に、非専属関係にある管理会社に委託する場合に較べ、提供される役務のきめ細かさや緊急時の対応の迅速さに差異があるからといつて、委託の対価である管理料が、当該管理料によつて受託者の正常な経費をまかない、かつ、適正な利益を確保することのできる額に決定されるのが通常であることを認めるに足りる証拠はない。のみならず、およそ、営利を目的として不動産賃貸業を営む者が、当該事業の遂行上、賃貸不動産の管理を不動産管理会社に委託する場合においては、その委託の対価である管理料は、通常の取引価格を中心として決定されるはずのものであつて、仮に、委託契約により提供される役務がきめ細かく、あるいは緊急時の対応が迅速であるとすれば、その便益は専ら賃借人が享受するものであるので、これが賃貸料収入の増加をもたらし、ひいては賃貸料収入に標準的な管理料割合を乗じて算出される管理料の金額も増加するに至るはずのものであるから、かかる事由によつて管理料の金額に差異が生ずるとしても、その点を特別に考慮するまでの必要はなく、せいぜい同業者間の管理料割合の平均値のうちに捨象される程度のものと考えるのが経験的に合致するものである(なお、仮に、専属関係にある管理会社がこのようにして決定される管理料を収受するのみでは、正常な経費をまかない、かつ、適正な利益を確保することが困難であるとの事実が存在するとしても、それは、特定の委託者との専属関係の下で営む不動産管理業が、元来、採算性のない事業であることを示すものに過ぎず、かかる事実が存在するからといつて、逆に、委託の対価である管理料が、当該管理料によつて受託者の正常な経費をまかない、かつ、適当な利益を確保することのできる額に決定されるのが通常であると考えることはできない。)。

したがつて、原告の右主張も失当である。

(3) さらに、原告は、原告のエス・アンド・テイーに対する管理料の支払が原告の所得税の負担を不当に減少させるものであるか否かを判断するについては、原告の支払管理料のうち、原告の役員報酬額相当分は原告の給与所得に、エス・アンド・テイーの留保額相当分はエス・アンド・テイーの法人所得にそれぞれ転換されて、結局は、課税の対象となる所得を構成するに至ることをも斟酌すべきである旨主張する。

しかしながら、原告の給与所得はエス・アンド・テイーに対する代表取締役としての役務の対価として支給される役員報酬に係るものであつて、右(二)の行為計算の否認及び適正管理料の計算の対象である原告のエス・アンド・テイーに対する管理料の支払ないしはこれに係る原告の不動産所得とは、所得の発生の根拠を異にするものであるから、右の支払管理料が原告の役員報酬の原資に充てられる関係があるとしても、所得税法一五七条の規定の適用に当たり、右の給与所得を斟酌すべきものではない。

また、所得税法一五七条に基づく法人の行為計算の否認及び計算を行うためには、当該行為計算を容認すれば、株主その他右の法人と所定の関係にある者の所得税の負担を不当に減少させる結果となることを必要とするけれども、右の所得税の負担に加えて当該法人の法人税の負担を総合し、ないしはこれを斟酌したものを不当に減少させる結果となることまでをも必要としていないことは、同条の規定上明らかであるから、原告の所得税について同条の規定を適用するに当たり、エス・アンド・テイーの法人所得を斟酌する必要性も存在しない。

したがつて、原告の右主張も失当であつて、採用の限りではない。

3  右2のとおり、原告の昭和五八年分の所得税のうち不動産所得に係る必要経費のうちの管理料の金額は、四二七万六八七四円であると認むべきところ、右事実と右1の争いのない事実とによつて、原告の同年分の所得税に係る総所得金額を算出すると、三八〇一万六一六四円となる。

三  原告の昭和五八年分所得税に係る所得控除の金額が一二七万〇八五〇円であり、源泉徴収税額が一二八万六七〇〇円であることは当事者間に争いがないところ、右二の3の総所得金額三八〇一万六一六四円から右所得控除の額を控除した課税総所得金額は三六七四万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)、これに所得税法八九条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)所定の税率を乗じて計算した算出税額は一六八〇万七〇〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)であり、納付すべき税額は、右算出税額から右源泉徴収税額を控除した一五五二万〇三〇〇円である。

四1  右一の争いのない事実によれば、本件更正に係る原告の昭和五八年分所得税についての総所得金額は三一八四万七六〇三円、納付すべき税額は一一八一万八九〇〇円であり、いずれも、右二の3の原告の同年分の総所得金額三八〇一万五一六四円、右三の納付すべき税額一五五二万〇三〇〇円の範囲内であるから、本件更正は適法である。

2  また、右一の争いのない事実によれば、原告は、還付すべき税額を七万八〇〇〇円として昭和五八年分の所得税の確定申告をしたものであるから、本件更正に基づき国税通則法三五条二項により納付すべき税額は一一八九万六九〇〇円であるところ、これ(ただし、国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた一一八九万円)に同法六五条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)に則り一〇〇分の五を乗じて算出した過少申告加算税の額五九万四五〇〇円を賦課した本件賦課決定は適法である。

五  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木康之 石原直樹 青野洋士)

別紙一~四 <略>

別紙 物件目録 <略>

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